筆者:黄海鳴  金杜法律事務所知的財産権

近年、人工知能やビッグデータなどの新興技術の発展・成熟に伴い、中国国内でハイテック起業のブームが起きている。株式市場の科創板がタイムリーに発足したことで、中国国内のハイテクベンチャー企業が資本市場で最もホットな投資対象となっている。知的財産はハイテクベンチャー企業のコアバリューであり、投資のハイリスクポイントでもあるため、投資者が投資を決定する前に最も重要な関心事になる。そのため、より多くの投資者が、投資決定を行う前に仲介機構に依頼してターゲット企業に対して知財デューデリジェンスを行い、ターゲット企業の知財情況を把握して、投資決定のための重要な情報サポートを提供することを選択する。

現在、企業の事業活動における知財デューデリジェンスの重要性が増えていくことに鑑みて、以下知財デューデリジェンスを行う際に注目すべきポイントについて簡単に紹介する。

(1)知的財産権に関する基本情報調査

ターゲット企業に対する知財デューデリジェンスでは、まずターゲット企業の各種知的財産権(特許権、商標権、著作権、ノウハウ)のリスト、その所有権、法律状態、権利負担、無効審判、訴訟情況など、ターゲット企業の知的財産権の基本情報を調査する必要がある。これらの情報は、他のより詳細な分析や評価のための基礎情報であり、情報の正確性と完全性を確保する必要がある。

知的財産権リストの完全性を調査する際には、取引の目的に合わせて調査を行う必要がある。取引の目的がターゲット企業への株式投資である場合、知的財産権リストには一般的にターゲット企業のすべての知的財産権が含まれる必要がある。この場合、リストには、ターゲット企業が出願しているがまだ開示されていない知的財産権(例えば、特許出願)及び専有技術も含まれるように注意する必要がある。これら2種類の知的財産権は、外部公開ルートで調査できないため、ターゲット企業からの提供を要求しなければならない。取引の目的がターゲット企業から関連する知的財産権の所有権または使用権を購入することである場合、ターゲット企業から提供された知的財産権リストに取引ターゲットである技術に関するすべての知的財産権が完全に含まれているかどうか、及び知的財産権リストにターゲット技術とは関係のない他の知的財産権が混ざっていないかどうかを評価する必要がある。この知的財産権リストの完全性は、関連するビジネス取引の目的の達成や取引対価に大きな影響を与えるため、ターゲット企業からの一方的な情報のみに頼らず、独立に評価を行う必要がある。

通常、ターゲット企業の創業者やコア技術者の個人名義の知的財産権も知的財産権リストに含まれる必要がある。また、ターゲット企業が社名変更を行ったが、登録された関連知的財産権の権利者の名称が変更されていない場合、ターゲット企業の旧社名名義の知的財産権も知的財産権リストに含まれる必要がある。さらに、投資者の要請に応じて、ターゲット企業の関連会社(特に子会社)名義の知的財産権が知的財産権リストに含まれるかどうかも検討する必要がある。

(2)技術ソースに対する調査

ターゲット企業の技術ソースは、ターゲット企業にとって重要なリスク源であり、投資者の注目ポイントであるため、知財デューデリジェンスの重点となる。技術をコア資産、コア競争力とする技術系企業にとって、技術が独自に開発されたものではなく、例えば、第三者のライセンスを受けたものであったり、又は第三者の技術を無断で使用したり、さらに第三者の技術を盗用したものであったりすると、ターゲット企業の事業の独立性や持続的な発展に多くの制限をもたらし、深刻な場合には、ターゲット企業が莫大な訴訟・賠償リスクに直面することになり、企業の倒産につながる可能性もある。

スタートアップ型ターゲット企業の技術ソースに対する調査は特に重要である。スタートアップ企業が創業後すぐに投資者の注目を集め、マーケットをリードする技術を取得できる場合、その技術は、創業前に既に生み出されたものであるか、あるいは既存の成果を元に生み出されたものである可能性がある。一般的なスタートアップ企業の技術ソースとしては、創業メンバーが学校や研究機関で行った研究の成果、創業メンバーや研究開発者が以前勤めていた会社で把握した技術、企業を買収した後に買収された企業から取得した技術、親会社から分立した後に親会社から取得した技術、第三者と事業提携した後に第三者から取得した技術などが考えられる。もしターゲット企業の技術ソースが上記情況のいずれかに該当する場合、ターゲット企業による関連技術の取得と使用が合法であるか否か、制限されるかどうかなどリスクが非常に高くなるため、慎重に調査する必要がある。

技術ソースを調査するためには、ターゲット企業の発展史(創業状況、M&A、分立情況)の調査、ターゲット企業のコア技術チームメンバーの背景の調査(大学、研究機関、元勤務先での同分野における勤務、学習履歴の有無)、ターゲット企業と第三者との技術提携の歴史の調査などが考えられる。上記の3つの方面の調査と、ターゲット企業の関連する知的財産権(特許、ソフトウェア著作権)の登録日や出願日の分析を組み合わせて、ターゲット企業の技術ソースを大まかに判断し、そのリスクを評価することができる。

(3)知的財産のクオリティ(質)調査

知的財産権のクオリティは、ターゲット企業の技術実力を直接反映するものであり、投資者にとって最も重要な関心事である。この点について、ターゲット企業の技術分野の特徴や研究開発歴史の長さを組み合わせ、ターゲット企業の知的財産権種類の分布が合理てあるか否かを分析したうえで、その知的財産権の全体なクオリティを判断することができる。また、ターゲット企業のコア特許の安定性、及びターゲット企業の特許を対象とする無効審判や訴訟の状況などを分析することで、ターゲット企業の技術の先進性を評価することができる。さらに、ターゲット企業の特許の請求範囲の広さ、特許の回避可能性及び請求項要件の検出可能性などの指標を評価することで、明細書作成の品質を調査し、ターゲット企業が対応する技術に対して知的財産権の有効な保護範囲を得るかどうかを評価することができる。

(4)知的財産権のビジネスとの関連性の調査

ターゲット企業の知的財産権とそのコア事業との関連性は、ターゲット企業の現在および将来の収益性や企業の持続的発展の可能性に直接影響するため、投資者にとって重要な関心事となっている。知的財産権とビジネスとの関連性調査を行う際には、まずターゲット企業のビジネス状況を調査し、ターゲット企業のコア事業が主にどのような製品、サービス及び関連技術に関わっているかを把握する必要がある。ターゲット企業の各知的財産権と関連する製品、サービス及び技術との対応関係を調査することで、ターゲット企業の知的財産によるコア業務へのカバー程度を評価し、これにより、ターゲット企業のコア技術が企業のビジネスに応用され、企業の収益に寄与しているかどうかを把握することができる。

また、ターゲット企業の特許出願の時間軸を調査することで、ターゲット企業の技術開発の歴史を知ることができ、現在ターゲット企業のビジネスで使用されている技術の開発周期を判断することができる。また、企業の技術研究開発の道筋から、ターゲット企業の技術蓄積や将来の事業の方向性を把握することで、ターゲット企業の将来の事業成長情況を判断することも可能である。

(5) 知的財産権の独立性調査

ターゲット企業の知的財産権の独立性は、ターゲット企業の将来のビジネスの継続性に影響を与え、さらには現在の取引目的の達成にも影響を与える可能性があるため、知財デューデリジェンスの重要なポイントでもある。そのため、ターゲット企業が第三者から知的財産権のライセンスを受けたことがあるかどうかを調査し、そのライセンスが企業の事業に与える影響を評価すること、ターゲット企業の知的財産権が第三者にライセンスされているかどうかを調査し、その対外ライセンスが企業の事業に与える影響を評価すること、ターゲット企業の知的財産権の使用が第三者との契約に基づいて制限されているかどうかを調査すること、及びターゲット企業が第三者と共有している知的財産権がビジネス及び取引の目的に与える影響を評価することなどが考えられる。この調査では、ターゲット企業と第三者との間の関連する技術契約の関連条項を慎重に検討し、ターゲット企業の発展に対する投資者の期待や取引の目的を組み合わせて、技術契約における制限がターゲット企業に与える影響を評価する必要がある。

(6)業界の知的財産権の概略と侵害リスク調査

通常、投資者はターゲット企業の技術が他者の知的財産権を侵害するリスクが存在しているか否かを重要視している。この点について、実際には現代の技術の複雑さに鑑みて、一つの製品や技術に関するすべての知的財産権が1社で保有される可能性はない。立ち上げられたばかりのスタートアップ型ターゲット企業として、すべての潜在的な知的財産権侵害リスクを回避できるわけがない。投資者は実際にターゲット企業の業界における技術的な優位性や、市場を独占する能力を重視している。そのため、株式投資プロジェクトについて、通常知財デューデリジェンスにおいてターゲット企業の関連製品や技術について厳格な侵害リスク調査(即ち、FTO分析)を行う必要はなく、そして、FTO分析に必要なコストや時間も一般的な投資プロジェクトが負担できないものである。その代わりに、知財デューデリジェンスにおいて、関連業界または指定された競合他社の知的財産権概略を調査し、業界の技術現状、競合他社のビジネス/技術方向、ターゲット企業の対応的な技術的優劣、及び特許障壁の概要を了解することで、投資者は業界におけるターゲット企業の知的財産権の態勢を全般的に把握することができ、これにより、ターゲット企業が将来に直面する恐れのある知的財産権リスクレベルが大体分かる。ターゲット企業が技術的な優位性を持っている場合、将来ビジネス的な成功を収めることができれば、第三者との事業提携や技術クロスライセンスなどを通じて、他者が起こす知的財産訴訟への対抗力を高めることができる。

一方、知財デューデリジェンスの対象はターゲット企業から技術ライセンスの購入または譲渡である場合、購入された技術を自由に実施できること、または該購入された技術を実施することによる潜在的な侵害リスクに対応する能力を有することを確保するよう、該ターゲット技術に対してFTO分析を行う必要がある。

知財デューデリジェンスは非常に専門的な作業であり、クライアントのニーズに基づいて、ターゲット企業の特徴及び関連技術の特徴を組み合わせて、投資者/バイヤーの立場からターゲット企業やターゲット技術の価値やリスクを評価する必要がある。優れた知財デューデリジェンスは、投資者/バイヤーがターゲット企業やターゲット技術をより明確に把握するのに役立ち、その正しいビジネス決定に重要な情報サポートを提供できる。そのため、ハイテクターゲット企業を対象とした投資プロジェクトでは、知財デューデリジェンスを行うことが不可欠である。