筆者:李輝 龐淑敏 金杜法律事務所 知的財産権

2021年4月26日に、国家知識産権局が2020年度特許復審・無効十大審判事件を公示した。これらの事件は、社会的影響が大きく、焦点となる問題が典型的であることから、十大事件として選出されており、これらの具体的な事件における国家知識産権局復審・無効審理部の認定は、将来の実体審査及び審判に対して大きな影響を与えるものと考えられる。とりわけ、類似の事件においてそれを援用・活用することもできると思われる。十大審判事件のうち、電気分野に関わる事件が三件ある。

ここでは、これら三つの事件の経緯及びその焦点問題を簡単に紹介する。

一、「DC電源を用いた分散型電力ハーベストシステム」発明特許無効審判事件(無効審決第47400号)

特許権者:ソーラーエッジ エルティーディ

無効請求人:ファーウェイ・テクノロジーズ

特許番号:ZL201210253614.1

決定:全部無効

焦点問題:請求項の構成要件への解釈の原則

当該典型的な事例は、近年来迅速に発展してくる太陽光発電産業に関する技術であり、金杜は、本事件において無効請求人であるファーウェイ・テクノロジーズを代理して無効審判手続きに参加した。本無効審判請求に対して、特許権者が請求項を補正するとともに、口頭審理において補正後の請求項を解釈した。審判手続きの焦点問題の1つは、請求項の構成要件への特許権者の解釈が合理であるか否か、及び請求項の構成要件を如何にして解釈するかである。

係争特許は、DC電源を用いた分散型電力ハーベストシステムを特許請求しており、無効請求人の無効審判請求に対して、特許権者は従属請求項3、5における付加構成要件(以下、下線で示す)を請求項1に入れた。補正後の請求項1は以下の通りである。

「【請求項1】

入力端子と、

出力端子と、

前記入力端子における入力電力を前記出力端子における出力電力に変換するように操作可能な電力コンバータと、

前記電力コンバータの電力変換を制御するコントローラと、

を備え、

前記コントローラは、

前記コントローラの入力端に接続されかつ前記電力コンバータ中の温度又は前記電力コンバータの環境における温度を測定することに適する温度センサからの温度信号を受信し、

前記温度信号に基づいて前記入力端子における前記入力電力を減少させるように配置され、

前記コントローラは、一つ又は複数の所定の標準に応じて制御回路を使用して前記入力端子における入力電圧又は入力電流の少なくとも1つを設定するように配置され、ここで、一つ又は複数の所定の標準は、前記温度センサからの入力である前記温度信号に基づいて前記入力電力を最大化するように規定する

分散型電力システムの信頼性を維持する装置。」

無効審判中、特許権者と無効請求人は、請求項1における「前記温度信号に基づいて前記入力端子における前記入力電力を減少させる」という元の構成要件及び上記新たに追加された構成要件への理解に争議がある。

特許権者は、上記構成要件を、「電力コンバータの温度が高すぎるとその入力電力を減少し、それとともに、電力コンバータの入力電力を減少して電力コンバータの温度を低減するという前提で、実際の状況に応じて電力コンバータの電力をできるだけ大きくする」よう理解すべきであると主張した。即ち、温度が高すぎるという状況にならないことを保証する場合、電力コンバータの電力をできるだけ大きくする。このような解釈によって、上記新たに追加された構成要件における入力電力を最大化する動作を、温度信号に基づいて電力コンバータの入力電力を減少するという請求項1における元の構成要件と関連付けるようになり、入力電力の減少は、当該場合に入力電力の最大化を減少することを満たすと考える。

これについて、無効請求人は異なる観点を持ち、以下のように考える。

1)請求項1の文言には、「電力コンバータの入力電力を減少する」ことと電力コンバータの電力の最大化との間に特許権者が主張した関係が現れていない。

2)明細書には、特許権者の主張に関連するいかなる技術案が開示されていない。

3)明細書の記載によると、電力を最大化する上で入力電力を減少した後、入力電力を最大化する可能性がなくなる。

上記争議について、合議組は審決書において以下のように認定した。係争構成要件への解釈について、当業者の立場に立って、特許の開示内容に基づいて当分野の通常の意味から理解すべきであり、必要に応じて特許権者の解釈を参考することができる。このようにして特許の発明構想の本音を明確にするとともに、大衆への公示信頼利益も保証できる。

この観点に基づいて、審決書において、合議組は、明細書における上記構成要件に関する開示内容に基づいて関連図面の記載を結合して、係争特許に開示の技術案を説明した。具体的に、温度信号が正常範囲内にあるとき、直接に最大化した入力電力をDC/DCコンバータにより出力し、温度信号に異常があるとき、温度信号に基づいて最大化した入力電力を減少することによって、温度応力を減少してコンバータ内部の予期寿命を増加してシステムの信頼性を向上する。

上記と同時に、合議組は以下のことを認定した。明細書には、温度異常の場合、電力コンバータを減少すると同時に更に実際の状況に応じて電力コンバータの入力をできるだけ大きくするという特許権者の主張が開示されておらず、当該技術案を実現するいかなる具体的な手段も提供されていない。これに基づいて、合議組は、新たに追加された構成要件に対して特許権者が過度な解読を行い、この解読は係争特許の開示内容に記載されていない技術案を導入してしまい、上記係争構成要件への理解に不利であるだけではなく、大衆の信頼利益へ損害があると認定したため、特許権者のこの解読を支持しなかった。

弊所コメント:無効審判手続きにおいて、請求項の技術案又は構成要件への正確な解釈は非常に重要である。特許権の保護範囲の確定を影響する一方、新規性や進歩性の技術対比に対して重大な影響を与える。請求項の技術案又は構成要件を解釈するには、請求項の文字記載に基づいて、同時に特許の解決しようとする技術課題、採用された技術案及び予期の効果を結合して全体から解読すべきであり、また、必要に応じて特許の開示内容から合理的に得られる発明構想及び関連する実施形態を参照して理解することもできる。しかし、請求項の技術案への解読は、特許記載の範囲を超えてはならず、当業者が明細書を読んだ後の通常理解を超えてはいけない。

二、「無線通信システム」発明特許無効審判事件(無効審決第46741号)

特許権者:シャープ株式会社

無効請求人:広東欧珀移動通信有限公司

特許番号:ZL01819676.4

決定: 全部無効

焦点問題:無効審判手続きにおける請求項補正の審査基準

当該典型的な事例は、シャープ会社の発明名称が「無線通信システム」である発明特許である。無効審判手続きにおいて、特許権者は請求項の補正を行った。当該事件において、焦点問題の1つは、特許権者が請求項に対して行った補正は受け入れられる補正方式に該当するかである。

特許権者であるシャープ株式会社が特許請求の範囲に対して行った補正は以下の通りである。

第一、請求項4、6における「フレーム内の周波数帯域」を「フレーム内の帯域」に補正して、明らかな誤りを修正した。

第二、特許権者は、請求項1における移動局側の同期手段に関する構成要件を基地局側の請求項に追加した。

上記補正について、無効請求人は、以下のように主張した。

1)「フレーム内の周波数帯域」から「フレーム内の帯域」への補正は、「明らかな誤りの修正」に該当しない。

2)請求項3、4への補正は、保護主題である「基地局」への更なる限定ではない。新たに追加された「同期手段」の動作は基地局の動作ではなく、実際に移動局の動作であり、また、基地局は、移動局の「同期」動作に対していかなる対応の調整を行う必要もないため、本質には基地局の動作への限定ではない。

3)請求項3、4への補正は元の開示の範囲を超えてしまう。本特許の元の明細書及び特許請求の範囲のいずれにも、「基地局」がこのような「同期手段」を含むという技術案が記載されていない。

上記補正について、合議組は以下のように認定した。

1)明らかな誤りの修正について

合議組は、実体審査手続きにおける「明らかな誤り」に関する規定を参照して、無効審判手続きにおいて、請求項における明らかな誤りも、所属技術分野の技術者が明らかに識別できるもの(例えば文法の誤り、文字記載の誤り及び印刷の誤り)であるべき、かつこの補正は唯一に特定されるものであると認定した。

上記理解に基づいて、合議組は、以下のように認定した。係争特許の請求項6の付加構成要件には、いかなる明らかな文法の誤り、文字記載の誤り及び印刷の誤りがないし、特許権者が主張した明らかな誤りの内容は、元の明細書、特許請求の範囲の上下文から明確に判断できないし、明細書の全体及び上下文から唯一に得られることができず、他の解釈又は補正の可能性がある。したがって、上記誤りは、審査指南に規定される補正が許容される明らかな誤りに該当しない。そのため、請求項4、6への補正は、明らかな誤りの修正に該当することを認定できない。

2)更なる限定について

合議組は、以下のように認定した。

更なる限定は、請求項に他の請求項に記載の一つ又は複数の構成要件を追加する補正方式であり、その目的は、元請求項の保護範囲を更に減縮し、実質には元の保護主題の保護範囲を更に縮小するという効果を達成することが要求されており、新たな構成要件を形式上追加するのみではない。

また、権利付与された請求項3、4はそれぞれ無線通信システムにおける基地局を特許請求している。特許権者が新たに追加した同期手段に関する構成要件は、基地局ではなく、無線通信システム全体への限定である。それとともに、該同期手段の動作は実際に移動局が実行されるものであり、基地局は、移動局の「同期」動作に対していかなる対応の調整を行う必要もなく、該同期動作は、請求項3、4における基地局の動作に影響を与えることもない。同時に、明細書に基地局が動作を実行することが記載されておらず、このような補正は、社会大衆が予期可能な合理的な補正方式も超えてしまう。

したがって、請求項3、4の新たに追加された構成要件は、保護主題である「基地局」への更なる限定ではなく、請求項の保護範囲を有効に縮小することができない。

上述した理由により、合議組は、特許権者が請求項に対して行った補正が、規定されている請求項の補正形式を満たしておらず、受け入れられないものと認定した。

弊所コメント:無効審判手続きにおける請求項の補正は、基本的な補正原則以外、審査指南に規定されている補正方式を満たす必要がある。審査指南の規定によると、無効審判手続きに許容される補正方式は、通常、請求項の削除、技術案の削除、請求項への更なる限定、及び明らか誤りの修正に限定されている。

明らかな誤りの修正は、当業者が容易に識別できる明らかな誤りであり、かつ、補正後の内容は、明細書に基づいて唯一に特定しなければならない。明らかな誤りではなく、又は補正後の内容は唯一ではないと、上記補正方式に合致しない。

「請求項への更なる限定」について、請求項に他の請求項に記載の一つ又は複数の構成要件を追加して保護範囲を縮小するものである。当該規定によると、追加された構成要件は、一つ又は複数の完全な構成要件であり、その目的は保護範囲を縮小するものである。したがって、追加された構成要件が完全な構成要件ではなく、又は保護範囲を縮小するという目的を達成できないと、請求項への更なる限定に該当しない。当該事例によると、発明の主題への実質的な限定でなければならないことを更に明確にし、このような限定は、発明主題自体と関連性がないと、請求項への更なる限定と認定することができない。したがって、将来の無効審判手続きにおいて、特許権者は「請求項への更なる限定」という補正形式を利用して請求項を補正するとき、特許無効の補正機会を確実につかむように、当該補正が実質的な限定作用を有するかを更に判断する必要がある。

三、「モバイル電源のレンタル方法、システム及びレンタル端末」発明特許無効審判事件(無効審決第44977&44984号)

特許権者:深圳来電科技有限公司、北京博合智慧科技有限公司

無効請求人:摯享科技(上海)有限公司、深圳街電科技有限公司、深圳市雲充吧科技有限公司

特許番号:ZL201580000024.X

決定:有効維持

焦点問題:ビジネスルールに関する発明の進歩性の認定

当該事例は、発明名称が「モバイル電源のレンタル方法、システム及びレンタル端末」である発明特許、即ち、近年来流行っているシェアモバイルバッテリーのレンタル技術案に関するものである。シェアモバイルバッテリーのレンタル技術案として、ビジネスルールに係ることは避けられない。当該事例において、合議組は、ビジネス方法が異なる応用シーンに使用されるときの進歩性への認定について、明確かつ具体的な審査基準を与える。

係争特許は、モバイル端末、モバイル電源レンタル端末とクラウドサーバーとの交互通信によりモバイル電源のレンタルを提供するという技術案を提供し、かつ、レンタルにおいて第1、第2及び第3のレンタル命令の上記三者間の送受信の具体的な過程、ID識別番号によりモバイル電源、モバイル電源レンタル端末の身分を識別し、上記データ情報に基づいてモバイル電源のレンタルを行う具体的な過程を含む。

無効請求人である摯享科技(上海)有限公司(以下、第1請求人という)、深圳街電科技有限公司(以下、第2請求人という)及び深圳市雲充吧科技有限公司(以下、第3請求人という)は、係争特許に対してそれぞれ無効審判請求を提起した。三無効請求人は、主に2種類の引用文献を引用して係争特許の進歩性を評価した。

第1種類:モバイル電源又はモバイルバッテリーのレンタルに関する引用文献であるが、レンタル案全体が例えばレンタル・販売機に実行される。

第2種類:三者間の交互通信のシステム構造の物品レンタル案(例えば、シェア自転車レンタル)に関する引用文献。

合議組は、ビジネスルールを従来技術とは異なる応用シーンに応用することによって、前記ビジネスルールは前記応用シーンの処理過程と相互に支持し、相互に作用することで、該処理過程における信号の流れ、情報制御方式に大きな変化が発生し、更に大きな差異を生み出し、かつこのような応用は従来技術とは異なる有益な効果を得ることができると、当該応用は進歩性を有すると認定した。

具体的に、第1種類の引用文献について、合議組は、以下のように認定した。モバイル電源のレンタルに関するが、レンタル案がモバイルバッテリーのレンタル・販売機に完成され、かつ、モバイル端末、モバイル電源レンタル端末及びクラウドサーバーとの三者の交互通信構造を採用していない。次に、これらの引用文献は、レンタルにおいて第1、第2及び第3のレンタル命令の上記三者間の送受信の具体的な過程、ID識別番号によりモバイル電源、モバイル電源レンタル端末の身分を識別し、上記データ情報に基づいてモバイル電源のレンタルを行う具体的な過程を開示していない。

第2種類の引用文献について、合議組は、以下のように認定した。モバイル端末、サーバー及び対応するレンタル・販売機の三者構造の形式によって実現する物品のネットレンタルが開示されている。しかし、応用されるシーンが異なり、かつ、レンタルにおいて上記三者間の命令の交互通信過程、モバイル電源及びモバイル電源レンタル端末の識別、並びに上記データ情報に基づくモバイル電源のレンタルの具体的な過程が開示されていない。更に、これらの引用文献のシーンにおいて、例えば、自転車のレンタルは、賃借人が、レンタルの自転車を観察できる状況で観察される自転車のレンタルを完成するが、係争特許において、賃借人がレンタルするモバイルバッテリーは、賃借人が選択し、制御することができず、モバイル端末、モバイル電源レンタル端末、クラウドサーバーからなる技術構造を通して判断、選択、提供するものである。レンタルシーンの異なりにより、両者の処理過程に大きか差異がある。したがって、創造的な工夫をせずに、当業者が上記相違点を想到できない。また、上記相違点が当分野の公知常識に該当する証拠もなく、更に、上記相違点によって、当該技術案がモバイル電源のレンタルの便利を図るという有益な技術効果を得る。したがって、係争特許は、上記三無効請求人が引用した引用文献及び公知常識の組合せに対して進歩性を有する。

弊所コメント:近年来、ビジネスルールに関する技術案は、単純なビジネスルール及び方法ではないと、権利付与の対象になり得る。進歩性の判断について、審査指南に、「構成要件を含むし、アルゴリズム特徴又はビジネスルール及び方法特徴を含む発明特許出願に対して進歩性を審査する際、構成要件と機能上互いに支持し、相互作用関係を有するアルゴリズム特徴又はビジネスルール及び方法特徴を前記構成要件と一つの全体として考慮すべきである」と明確に規定されている。しかし、具体的な応用の際、ビジネスルール又は方法を設計する発明創造の進歩性への認定は、依然として困難である。当該事件は、異なるシーンにビジネス方法を応用する際の進歩性の認定方法を与え、当該方法は具体的なものであり、実務では容易に実施、適用されることができる。類似事件について、特許権者は、シーンの区別及び処理過程の差異、応用シーンの区別と処理過程の差異との因果関係、及びこれらの差異から実現する技術効果から、進歩性の抗弁を行うことができる。