著者:毛琎(知的財産)

 

 

 

一、事件の概要

本事件は、接触分解分野において、主に重質原料の接触分解やガソリンの接触改質に使用される低温再生触媒循環方法の特許に関するものである。係争特許は、導入した後しばらくは商業的成功を収め、国家科学技術賞を受賞した。該特許の名称は「低温再生触媒循環方法及びその装置」であり、具体的に、流動接触分解プロセスであり、該プロセスは、ライザー反応器内で炭化水素原料が触媒と接触して反応し、反応物は分離器に流れ油ガスから触媒を分離し、分離した使用済み触媒はストリッピング区域でストリッピングし、再生器に入ってコークス燃焼して再生し、再生された触媒は、ライザー反応器に戻され、再利用されることを含む。請求項1には、「下部に流動媒体分配設備が設けられ、下流に触媒混合緩衝空間が設けられる」と限定され、明細書にも該構成要件が対応して記載されている。本事件の肝心な技術的争点は、「下流」に位置する「混合緩衝空間」に焦点が当てられている。

本事件は、国家知識産権局が特許の有効性を維持することを決定し、一審法院が国家知識産権局の審決に誤りがあることを判決し、二審法院が一審判決を取り消し、最高人民法院が二審判決を取り消し一審判決を維持する、これらの多数の訴訟プロセスを経た。多数訴訟プロセスで、結果が何度も揺れ動いたが、最終的に、金杜は無効請求人を代理し、係争特許を無効とすることに成功した。

二、事件の経緯

1、国家知識産権局は特許権を有効に維持した

無効請求人として、係争特許の明細書には、触媒冷却器について明確かつ完全な記載がないと考えている。合議組は、係争特許の図面及び図面の説明に、「混合緩衝空間」が、再生触媒の冷却後に設置され再生触媒を混合して緩衝処理するための設定であることが十分に示されていると認定した。「混合緩衝空間」が特許法第22条第3項に規定する進歩性を具備するかについて、合議組は、触媒冷却器に混合緩衝空間を設置することは、当分野の公知常識ではなく、相違点であると認定した。そのため、合議組は、係争特許の有効性を維持することを審決した。

2、一審法院は、国家知識産権局の審決が誤っていると判決した

一審法院は、紛争の焦点は、係争特許の明細書の記載が十分であるかどうか、また、相違点への認定が誤っているかどうかであると認定した。

係争特許の明細書の記載が十分であるかどうかについて、一審法院は、「混合緩衝空間」が特定の用語ではなく、混合と緩衝が該空間の機能であることは、係争特許の明細書、図1及びその図面の説明から明らかであり、当業者であればその設置を理解できるため、記載が不十分なところがないと認定した。

相違点に該当するかについて、一審判決は、原告(当方)が提出した証拠中に、触媒冷却器内の混合緩衝空間の存在を明確に示すものがなかったことは事実であるが、技術原理からいると、触媒は固体粒子であり、触媒冷却器で熱交換した後、触媒排出口から流出し、流出前に流動化媒体によって流動化する必要があり、そのため、多少触媒に対する混合、緩衝作用を持っており、即ち、実際には混合と緩衝作用を実現する空間が形成されていると認定した。一方、係争特許は、「混合緩衝空間」の大きさや具体的な構成についてそれ以上の限定や説明をしていないから、証拠に対して「触媒冷却器の下流に触媒混合緩衝空間を設ける」ことは相違点にならないと認定すべきである。したがって、係争特許は進歩性を具備しておらず、国家知識産権局の認定に誤りがある。

3、二審法院は一審判決を取り消した

二審法院は、当方が証拠を提出して触媒冷却器の下流に混合と緩衝作用を実現する空間が形成されていることを証明したという一審法院の認定は、事実根拠がなく、係争特許が特許要求している「混合緩衝空間」と実質的に同一でもないと認定した。また、二審法院は、混合緩衝空間の機能は係争特許の属する技術分野において公知常識に該当するが、「触媒冷却器の下流」に「触媒混合緩衝空間」を設けることは、当業者が容易に想到し得る構成要件ではないため、「触媒冷却器の下流に触媒混合緩衝空間を設ける」ことは相違点になり、係争特許は進歩性を具備し、国家知識産権局の認定は支持されるべきであると認定した。

4、最高人民法院の最終的な判決により、当方は係争特許を成功に無効にした

最高人民法院は最終判決で、一審判決が不適切ではなく、支持されるべきであるとした。最高人民法院は、本事件の争点が、「触媒冷却器の下流に触媒混合緩衝空間を設ける」という構成要件をどう理解するか、及び進歩性を具備するかであると認定した。

争点に係る構成要件について、最高人民法院は以下のように認定した。即ち、係争特許の明細書には、混合緩衝空間の具体的な構造及び技術効果についてそれ以上の説明はなく、添付図面では触媒冷却器の下部に該空間が付されるに過ぎない。したがって、この構成要件の通常の意味と合わせて、「混合緩衝空間」は、冷却された触媒を混合し緩衝するために触媒冷却器の下部に設けられた特定の空間と理解すべきである。進歩性への認定について、発明者の陳述において、「混合緩衝空間の機能は、本特許の属する技術分野において公知常識に属する」と承認した。また、当方が提出した関連書籍には、伝熱管束と流動媒体分配設備との間に空間があることが明記されている。これは、引用文献に触媒冷却器の下方に混合緩衝空間を設けることが明確に開示されていないものの、その下方に係争特許の「混合緩衝空間」に相当する特定の空間が確実に存在することを十分に証明できる。当業者は、公知常識を結合して、該特定の空間を、冷却された再生触媒を混合、緩衝する機能を実現するように設置することを容易に想到し得ることである。

三、金杜代理人の考え及び貢献

1、法的規定から、特許権者が明細書の記載が不十分であることと特許が進歩性を具備しないことを二者択一にしなければならない無効の戦略を立てる

本事件において、金杜代理人は、請求項1における「混合緩衝空間」という表現をめぐる抜け道を特定した。すなわち、「触媒冷却器の下流に触媒混合緩衝空間が設けられる」という表現が、証拠と区別できる相違点とみなされた場合、係争特許は、明細書の記載が不十分である状況に該当する。これにより、特許権者は、記載が不十分であること、進歩性要件を満たさないことから選択を迫られ、勝訴への道が開かれたのである。

2、特許権者は、技術的本質と原理から出発して、慎重かつ綿密に証拠調べを行い、複雑な技術案における肝心な突破点を特定することに注力した

本事件の技術的な焦点である「混合緩衝空間」は、実は特許権者の自作用語であり、その実現方法について特許権者による十分な記載がなされていなかった。金杜代理人は、証拠調べの過程において、この表現に限定することなく、用語の客観的な機能から、「混合」及び「緩衝」の技術的本質を分解し、この自作用語が表す技術原理が実は先行技術の通常設計であることを読み解くために慎重かつ綿密に証拠調べ作業を行った。本事件は、将来の類似事件に対して積極的な教示がある。意図的に曲解し、自己作成の請求項の表現に遭遇した場合、代理人は技術的な本質から出発して原理を理解し、言葉遊びを解き明かすべきである。

3、商業的な観点から、係争特許と特許権者の言う「商業的成功」との論理的な関係を正しく明らかにする必要がある

本事件は、社会的に大きな意味を持つ。本事件に係る係争特許は、商業的に大きな成功を収め、対応する分野で技術的な栄誉を獲得したものである。しかし、最高人民法院は、「大きな商業的成功」や「予期せぬ有益な効果」と、係争特許の「混合緩衝空間」との間には対応関係や因果関係がないことを明確に説明した。したがって、特許権の有効性の判断は、常に特許の技術案の本質に立ち返るべきであり、その社会的影響とは関係がない。

本事件のように複雑な技術を含む特許については、代理人が合理的な無効戦略を立て、対応する証拠を慎重かつ正確に準備することが特に重要である。証拠が客観的かつ真実であり、推論が十分に有効である場合、各級法院にとって、客観的事実を認定することは難しいことではない。これで、複雑な技術案から主な突破点を見つけることは、事例の最も重要な点であることがわかる。